やっと今年の仕事も一山越えました。年鑑の執筆を完了、現在、熊本に飛ぶ飛行機の上におります。秋晴れの日本列島を九州に向かい急いでおります。九州経産局が主催するアジアクラスターのシンポジウムの取材のためです。
 ひたすら原稿を書いていたため、久しぶりの取材に身も心も心もち軽い。
 年鑑を執筆すると、各バイオ分野の1年の動きをぎゅっと取材するため、今まで点でしか、理解できなかった知識を面として捕らえることができます。胸がつかえるような長い急坂をひいひい言いながら山の頂上に到達すると眼下に技術や市場の行く末が見えるような気になります。
 誠にストレスですが、達成感のある仕事です。現在、バイオセンターのスタッフもひいひい言いながら知識を煮詰めておりますが、これが終われば、展望や歴史観を踏まえた、すこし進化した記事を皆さんにも提供できると楽しみにしております。
 これだけ苦労しておりますので、是非とも皆さんにもお読みになっていただきたい。インターネットで情報過多になった今こそ、こうした情報を煮詰めて、次を指し示すインテリジェンスが不可欠です。
 下記より詳細にアクセスし、お申し込み願います。確かに高額ですが、その価値は間違いなくあります。低迷していた我が国のバイオ産業もいよいよ谷底に辿り着き、反転の時を迎えようとしています。春を告げる鳥の声が聞こえる皆さんにこそ日経バイオ年鑑2008を贈りたいと思っております。12月13日までなら割引で購入できます。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/recommend_pub/18.html
 さてバイオです。
 私は今少し立腹しています。日本のメディアの臆病さと内閣府の見通しの無さ、そしてそもそも法の執行者である行政が自分の職務に関する法的な無知さに怒り心頭に発しています。
 先週、皆さんに京都大学再生医科学研究所の山中教授のグループと米Wisconsin 大学のグループがそれぞれヒトES細胞のように多分化能をもったiPS細胞樹立に成功したことを、号外でお知らせいたしました。
 新聞各紙が一面で大はしゃぎしました。しかし、その論調は新聞記者のいわゆる”バランス感覚”に富んだ、中途半端な記事でした。一言で言うと、凄いけど、何かあるといけないから規制を検討すべきという結論の無い、気配り記事です。判断が怖い記者やメディアは必ず両論併記という、曖昧さに逃げ込みます。
 結論から言えば、iPS細胞に新たな規制はまったく不要です。受精卵を破壊して作製する特殊性からヒトES細胞の樹立と使用が規制されていますが、この規制もiPSは対象外であると考えます、
 2001年に試行した「ヒトに関するクローン技術などの規制に関する法律」(法律第146号)という立派な法律が既にあり、これでiPS細胞によるヒトクローンの作製という反社会的な行為を取り締まることが可能だからです。
 「規制が必要だ」と内閣府が言ったか、マスコミが言わせたか定かではありませんが、この法律自体は内閣府が成立にかかわっており、担当者と執筆した記者は勉強不足です。
 但し、この法律にも欠陥があり、そもそも核移植によってだけ作製されたヒトクローンを取り締まる構造になっているのです。あれだけの学者と法律家を集めた委員会が議論した法律が、技術進歩を前提とせず、当面の世間の批判を回避するために汲々とした産物としか思えません。もっと議論を重ね、問題の本質を突くべきでした。
 問題の本質はこのメールでも何回も言っておりますが、自分と同じクローン人間を人為的に複製することが、民主主義を崩すことになるから、禁止だということです。自分のクローンを作製して、「じゃお前が会社に行き、稼いでこい」とクローンに命令した時、クローンが「お前が行け」と反論した場合、自分はお前を作ったのだから、命令を聞け、第一私がお前を所有しているということを言うことが反社会的なのです。法の下に個人は平等だという民主主義の原則が崩れてしまうからです。
 事実、ヒトクローンそのものは反社会的でもなんでもありません。一卵性双生児はヒトクローンそのものです。偶然生まれたヒトクローンは民主社会の一員として社会を構成しているではありません。
 その意味でとにかく阻止しなくてはいけないのは、技術がなんであれ、人為的にヒトクローンを創ることです。今後、iPS細胞以外にヒトクローンを実現する技術はどんどん開発されるでしょうから、前述の法律を技術によらず人為的にクローン人間を作製することを禁止と改正するだけで、問題は氷解するはずです。
 これが成立すると、受精卵を分割して人為的な一卵性双生児を作る技術は当然禁止することになります。一番の懸念は、iPS細胞よりも、現在、治療という名前の下になんでもありになってしまった産婦人科の不妊治療にこそあるのではないかと、思っております。
 iPS細胞は私達も説明を省くために、ES様細胞と表現してしまいますが、実はひょっとしたら甚大な違いがあるかも知れません。
 ES細胞は受精卵が発生した胚の内部細胞塊を体外で培養した細胞ですが、総ての細胞に分化するというのは間違いで、実は胎盤を発生することができない。つまり、胎盤と胚になる細胞に分化した段階で、胚になる細胞から株化した細胞株であることを認識しなくてはなりません。
 今回、2つのグループが線維芽細胞に4種の遺伝子を導入してまるでES細胞のように多分化能を持つ細胞を作製、その分化能を確かめています。マウスの段階では子供まで生まれています。しかし、現在、分化能を評価している手法が今までES細胞で使用された手法であるが故に、ES細胞並の能力しか認定できていない可能性があります。
 もし本当に、4種の遺伝子で成人の細胞が初期化するというならば、iPS細胞は胎盤をも形成する、受精卵とまったく同じ、完全な全能性を持っている可能性も否定できないためです。ひょっとしたら単為発生する能力を備えた受精卵のような能力を獲得しているかも知れないのです。現在では、単為発生の能力すらどう検定すべきか判りませんが、卵管に戻して、出産までできるかも知れません。
 捏造事件で失脚した韓国ソウル大学の黄教授のヒトES細胞を精査したところ、単為発生した細胞株であったという報告もありました。今後、ES細胞と単為発生の関係は科学的にもきっちりと解析しなくてはならないと思います。
 しかし、安心してください。
 まだ完全なSFですが、万が一にiPS細胞を単為発生させることができる技術を開発した場合でも、「ヒトに関するクローン技術などの規制に関する法律」さえ改正しておけば、禁止されます。仮に、iPS細胞から精子を分化させ、他人の卵子に受精させた場合は、これは体外受精としての治療行為になり、別の法体系の対象となります。さらに仮にiPS細胞から精子と卵子を発生させて人為的に受精させた場合、これは明らかにクローン作製ですから、禁止の対象となります。
 いずれにせよ、技術によらず人為的なヒトクローンを禁止する、その一文だけ明記すれば、「ヒトに関するクローン技術などの規制に関する法律」も使い物になると思います。法律の名前もこの際、「ヒトの人為的クローン作製の禁止に関する法律」とした方がすっきりするでしょう。進歩する技術を特定した法律は、時代と共に使いものになりなくなります。我が国の立法家も是非ともこの点を肝に銘じて、技術ではなく技術が社会に与えるリスクの本質的な問題を抽出して法律を制定していただきたい。国民の自由を護るために、必要悪である法律は必要最小限でなくてはなりません。
 ついでに、先進国では我が国だけが施行しているES細胞の使用に関する規制を、早急に認可ではなく、届出に変えるべきだと思います。この規制ほど、国民の血税を使って、国民の生命や幸福を護る研究を遅らせるという愚を冒しているもはありません。患者の代表も加わっていない委員会の小田原評定こそ、反社会的だと私は思っています。 さて、最後にBTJプロフェッショナルセミナー第3弾とファーマビズセミナーに皆さんをお誘いしたいと思います。
 抗体医薬は一日にしてならず。実は創薬標的が確定しても、治療に役立つ抗体を開発するのは簡単ではありません。その最大の原因は、げっ歯類やトリに免疫しても、必ずしも自由自在に抗体ができないことです。その壁を突破する可能性があるのが、ファージ抗体など非免疫によって開発された抗体です。
 でもそんなことして、本当に安全で有効なのか? 今回のセミナーでは、唯一、キメラ抗体、ヒト抗体(ファージ抗体)が臨床開発された抗TNF抗体を例に検証いたします。この分野の権威である東京医科歯科大学の宮坂教授をお招きしました。また、抗体医薬ではわが国のトップを走る中外製薬のキーマンもパネルディスカッショに参加します。どうぞ、抗体医薬を真剣に開発したいと考えている方はご参加下さい。残席も少なくなって来ました。どうぞ下記より詳細にアクセスの上、お早めにお申し込み願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/071206/
 毎年、ご愛顧いただいている12月ファーマズセミナーいよいよ講師確定です。
 ノバルティスファーマの森正治・事業開発統括部長と米Eli Lilly社よりスピンアウトし、POC早期確立のためのベンチャー企業を設立したFlexion社のMichael Clayman CEOと、Neil Bodick COOが参加します。内容充実したセミナーにどうぞ皆さんのご参加を期待しております。下記よりお早めにお申し込み願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/071214/
 熊本に着きました。今夜も楽しみですね。今週もどうぞお元気で。