レッドソックスの強さは本物のようです。
 ファンの証に俄かに、今年BIO2007の取材で訪れたBostonで手に入れたレッドソックスのTシャツをおろして、部屋着にするという節操の無さです。昨日、集金に来た読売新聞が、新聞袋と一緒に巨人軍優勝のタオルを置いていったのが、なんとも物悲しい。家人は洗濯洗剤の方が良かったと言う始末。我が国にプロ野球の日程も、米国の大リーグを勘案して決めないと、世間からますます注目されない時代になったのですね。地球で急速に起こっている市場統合の波は国内のあらゆる産業を飲み込んでしまったのです。まさに、地域独占の崩壊です。
 「イランに行くのは当たり前じゃないですか」
 浦和レッズが、アジアクラブ選手権の準決勝にPK戦で辛うじて勝利し、決勝のアウェイ戦が決定したその夜、午前0時から販売を開始したイランへの観戦ツアーはたった5時間で完売となりました。
 冒頭の発言はその翌朝、50代以上(失礼)と思われる女性二人組みが浦和駅頭でTVのインタビューに答えて、本当にさらりと言ったものです。これには私も動転しましたが、サッカーというスポーツの世界性をレッズのサポーターが血肉化していたことが心から嬉しい。米軍のイランへの攻撃が始まらないことを祈るのみです。
 もとからコスモポリタンである科学も浦和レッズ並の世界性を取り戻さなくてはなりません。豊かになった日本の科学者は世界への修行の旅を躊躇うようになりましたが、中進国の欧米への科学者の留学の波は急速に進んでいます。9.11以来、米国が留学生ビザの発給が減り、いよいよ米国の人材吸引が難しくなると指摘したことがありますが、今週号のニューズウィークでは、米国の大学が再び授業料免除や様々な優遇措置をつけて、留学生の呼び戻しに躍起となっていることが報道されています。世界の頭脳を引き寄せることが、知的資本主義で世界をリードする原動力であることを、米国が再認識したのです。
 日本でも世界トップ拠点形成のプログラムを2007年度から文部科学省が着手しました。7年間毎年15億円という巨額な資金を投入、世界中から頭脳を呼び寄せるインフラを大学や公的研究機関に形成するという大胆なプログラムです。
 しかし、蓋を開けてみれば、拠点形成に選択されたのは、東北大学、東大、京大、阪大、物質材料研究所と旧帝大揃い踏みで、何ら新鮮味のない選択。旧帝大4大学は東大を筆頭として、毎年巨額な資金を国家が100年以上営々と注ぎ込んできたはず、それなのに、今まで海外の頭脳を受け入れ、世界に競争力のある知の拠点を形成できなかった事実を、天下に曝す結果となりました。私の報道の意欲も一挙に低下、BTJのニュースから存在が遠のき、皆さんにはご迷惑をかけてしまいました。一種の虚脱です。茶番には付き合えんという意味でもあります。
 日本国内で一番という地域独占に甘えて、自己の国際的な地位の評価もできず、従って、改革もできない、旧帝大に今更、巨費を投じてどうなるのか? また、新しい建物に「世界トップ拠点」という看板だけが目立つ荒涼とした風景が想像できます。国立大学法人という組織が、形だけの変革を繰り返し、巨額な国税を投じて要請した若い研究者を犠牲にする姿はもう見たくないというのが現実です。
 一番の問題は、大学の経営陣と教官の意識改革です。
 大学院重点化で、大学院の定員を倍増したのに、教官の数はほとんど増えない。つまり大学院教育が半分の薄味になったことに加え、競争的資金獲得に奔走する教官は、論文が書ける短期的テーマを大学院生に与え、あたかも奴隷として肉体労働を強いる状況です。こうした状況では、有能なテクニシャンは育成できますが、自らテーマを発掘し、実験計画を立て、検証する一人前の研究者を養成することは不可能です。結局、国際的な他流試合が出来ない結果、今までの延長線上の教室のテーマや教室の人間関係にしがみつく研究者しか生まれない惨状です。深刻なのは現在の教官達も体の良い徒弟制で養成され、国際的に通用しない研究者が多いことです。もはや悪循環に、我が国の大学は陥ってしまったのかも知れません。
 仮に世界拠点の費用、15億円×5、つまり75億円の費用を、大学院生の留学に提供すると、一人750万円の滞在費・学資で1000人の学生を留学することが可能です。明治時代の官費留学制度の復活を検討した方が、本当の意味の世界拠点形成の早道かも知れません。
 「新しい酒には新しい皮袋に」
 世界拠点形成には、皮袋よりまず人材という新しい酒を醸し出さなくてはならないのです。
 「長崎でなければ出来ない企業を輩出させます」
 10月29日午前12時50分に、長崎の出島の近くの海に面した素晴らしい場所に、中小企業基盤正義機構が、D-FLAG(ながさき出島インキュベータ)の開所式が挙行されました。早起きしてその取材に来ましたが、場所は満点。長崎港に面し、左手に長崎県美術館を、右手に出島ワーフ(テラスレストラン群)を配しています。私が知る限り我が国のインキュベーターの中で最高の立地だと思います。
 冒頭の挨拶は長崎大学の学長でありましたが、県立長崎シーボルト大学、長崎総合科学大学も、支援を約束しているインキュベーター施設です。主力企業は、3Dのシミュレーションなど、IT企業が中心ですが、一部バイオ企業も入所しております。施設延べ床面積1600平方メートル、実験室タイプ20室とオフィスタイプ12室があります。現在、26社(応募企業32社)が入居、満室です。
 設立5年未満の企業には1年から2年目は1平方メートル当たり1100円の賃料で提供します。チーフインキュベーションマネージャーには、科研製薬で世界で初めて組換えFGFを商業化した梅津さんが就任しています。
 雰囲気はなんとなく、サンディエゴに似ています。
 本当のベンチャー創出は風光明媚なところ、つまり才能が集う自然・文化的蓄積がある場所で起こるという仮説を持っております。D-FLAGがそれを証明しうるか、今後の関係者の踏ん張りに期待したいと思います。
 長崎大学は熱帯病研究でグローバルな研究ネットワークを張り巡らし、我が国でもこの分野では突出しており、グローバルCEOにも選出されています。勿論、熱帯病など儲からんという声も聞こえますが、本当にそうか? Bill Gatesが創出した財団やWHOなど、熱帯病に投下する資金は増大しています。更に、インドやエジプト、ナイジェリア、ブラジル、シンガポールなど熱帯、亜熱帯地域の中進国の経済発展は、かつては購買力のない国を変貌させ、熱帯病に対する市場が姿を現しつつあることを、認識しなくてはなりません。
 地元にある世界と競争力のある資源を活かし、独創的な起業を行うことが、我が国のクラスターが生き残る唯一の道だと確信しております。かつて地域独占が可能だった時代には、東京の方を伺い、全国各地にパルコのような都会にある類似した施設を誘致することが重要でしたが、今では全国津々浦々まで世界市場に飲み込まれた事実を認識しなくては、旧帝大の轍を踏むことになりかねません。
 最高の立地だからこそ、長崎では最高の独創性が求められているのです。
 さて、そろそろ本当に最後のお願いに近づいてまいりました。11月7日午後に東京で開催するBTJプロフェッショナルセミナー「メタボロームが拓くバイオ産業」に、まだご登録されていない方はどうぞ下記から登録をお急ぎ下さい。
 助教、ポスドク、大学院、大学生はスポンサーのご厚意で無料招待いたします。事前が必要です。下記のサイトの学生登録サイトをクリック願います。
 今回も、会場を巻き込んだ、パネルディスカッションを行います。
 「本当に役に立つの?」「どこに限界があるの?」
 学会では得られない、生々しい実態に触れることが可能です。勿論、皆さんの質問も大歓迎です。
 准教以上の大学教官、公的研究機関の研究員、企業の方は申し訳ありませんが、有料です。残席僅少になってまいりました。どうぞ下記をアクセスの上、お早めにお申し込み願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/071107/
 11月29日にBTJプロフェッショナルセミナー「次世代シーケンサーが拓くバイオ産業」、12月6日にBTJプロフェッショナルセミナー「次世代抗体医薬の夢と現実」をそれぞれ開催いたします。いずれも午後、東京で開催いたします。どうぞ日程の確保をお願いいたします。
 今週もどうぞお元気で。
 
 ps 先週の金曜日のメールで、中辻教授の所属を京都大学再生医科学研究所長と表示してしまいましたが、これは当方の誤認でした。10月1日から、京都大学物質ー細胞統合システム拠点 拠点長、および、京都大学再生医科学研究所 教授が正しい肩書きです。
 ここに謹んで訂正させていただきます。