今朝午前中に、キリンビールが協和醗酵を友好的TOBで買収することを発表しました。いよいよ抗体医薬、つまりバイオ医薬を軸に我が国でも製薬企業の整理再編成が始まったのです。勿論、協和醗酵キリンは、米国の抗体ベンチャー企業としては国際的な規模を誇りますが、製薬企業としては国際的なクリティカルマスを越えているとは言いがたい状況です。
 ベンチャーになるか? 製薬企業としてクリティカルマスを超えるために、もう一回企業統合を行うか? 近いうちに判断しなくてはならないでしょう。
 現在、オミックス医療が拓く未来2007シンポの会場におります。
 海外ではオミックスのデータを統合するインテグロミックスが急速に進んでいます。ゲノムからエコノミックスまで膨大な、しかも種類が異なるデータを統合して、医療に技術革新を起こすバイオマーカーや新薬の発見を生み出そうという努力です。今回も米国立がん研究所ゲノミックス&バイオインフォマティックスグループヘッドであるJohn N. Weinstein氏が、NCI60というがん細胞株のオミックスデータを他の膀胱がん細胞株のオミックスと関連させ、最終的には乳がんの臨床サンプルのオミックスと関連させて、がんのバイオマーカーや治療薬をインシリコで炙り出す試みを発表しておりました。
 総てバイオインフォで評価できるとは思いませんが、新薬やバイオマーカーの候補を絞りこむためには重要です。
 今回の講演会でつくづく感じましたが、オミックスは他のオミックスと連関付けることによって、生物学的にも医学的にも価値が増大するのです。
 日本のバイオ研究者も、「私はプロテオミックスの専門家だ、とか、ゲノムの専門家だ」といった1種類のオミックスの家元となることを主張することはそろそろ止めるべきだと思います。
 確かにオミックスは深堀すれば深堀するだけ、データが出ますが、同時に解釈不能のデータに押し流される危険性も増大するのです。オミックスを生かすには、データを統合し、生命現象に対する仮説を生み、そして検証する必要があるのです。これは1つのオミックスの家元では不可能です。
 冗談ですが、オミックスのオミックスを追求しなくてはならないのです。
 つまりシステムバイオロジーに他なりません。
 会場からどうしたらそういった統合的な研究を進められるのか? という質問が飛びました。Weinstein氏の回答は明確で、少なくとも1つの頭に総てのデータを入れて考えること。このためには、ウェブ上に様々なオミックスデータベースが既にオープンにアクセスできるようになっているし、それらのデータベースを関連付けたり、分かりやすく相互関係を表示するツールがどんどん開発されているので、こうした資源を生物学者やバイオ研究者は使いこなす必要がある、と指摘しました。実際、同氏はこうしたウェブ上のオミックス資源とツールを教える授業を行っており、これは今後のバイオ研究者には必修にすべきではないかと、訴えかけました。下記に同士のウェブサイトがあります。バイオインフォは嫌いだという生物学者も、まずは鼻をつまんででも、アクセスして見てはいかがでしょうか?
http://discover.nci.nih.gov/
 バイオ研究もいよいよ日本人が苦手な領域を越えた統合的理解が不可欠な知的活動となってきました。
 但し、唯一、我が国が統合研究の流れで米国に勝る環境があります。
 「狭い場所に、外科医、学生、統計家、分子生物学者、インフォマティシャンなど、幅広い人材を揃えて、相互にコミュニケーションせざるを得なくするのもインテグロミックスを進めるには有効だ」(Weinstein氏)。
 どうです。日本の劣悪な環境が、土俵際で逆転する可能性を秘めています。可能なら、狭いだけでなく、隣の研究室との垣根を低くしなくてはなりません。そしていつの間にか自分の心に専門化という垣根を作っている自分も変えなくてはなりません。
 という訳で、ぜひとも皆さんの心理的な専門化の壁を打破するためにも、11月7日午後に東京で開催するBTJプロフェッショナルセミナー「メタボロームが拓くバイオ産業」にご参加願います。複数のオミックスを組み合わせて、皆さんの研究成果の価値をつけましょう。
 先ほど立ち話したWeinstein氏も「LC-MSを使ったがんのオミックスデータセットの収集を始めた」と指摘しました。インテグロミックスにもメタボロームは不可欠だと言うわけです。
 今回も、会場を巻き込んだ、パネルディスカッションを行います。
 「本当に役に立つの?」「どこに限界があるの?」
 学会では得られない、生々しい実態に触れることが可能です。勿論、皆さんの質問も大歓迎です。助教以下の大学院生、学生、ポスドクは今回、スポンサーのご厚意で、無料招待いたします。下記のサイトの学生専用申し込みからアクセス願います。
 准教以上の大学教官、公的研究機関の研究員、企業の方は申し訳ありませんが、有料です。残席僅少になってまいりました。どうぞ下記をアクセスの上、お早めにお申し込み願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/071107/
 中国科学院までがメタボロームの拠点形成を始めることをご存知でしたか?
 今回のメイン講師である慶応義塾大学先端生命科学研究所の曽我教授は、最近同氏が調査した、世界のメタボロームの研究動向も発表いたします。欧米も国家として、研究拠点を形成しつつあります。特に植物関連のメタボローム研究は急速に展開しつつあります。
 また、医薬分野では臨床試験の患者さんの選択に、米Pfizer社などが既にメタボロームを活用しているという最新情報も開陳されるかも知れません。そして勿論、世界をリードする曽我氏のメタボローム研究の最新成果も発表されます。
 前日まで東大で開催されているメタボローム学会と合わせて、参加いただければ、現在のメタボロームの状況を把握することが可能です。BTJプロフェッショナルセミナーは基礎研究ではなく、メタボロームの産業化に焦点を当てて議論いたします。
 どうぞ、皆さん下記をご参照の上、お早めにお申し込み願います。
 会場でお会いすることを楽しみにしています。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/071107/
 今週もどうぞお元気で。