現在、大阪でバイエル薬品の取材を完了、神戸からバスに飛び乗り、淡路島を経由して徳島に向っております。空には、立派な鰯雲がたなびき、静かな瀬戸内海を船が転々と曳航しています。右手のそれはほんのりと橙に変わりつつあります。まさに日本の秋を満喫しながら、この原稿を書いております。
 シェリングAGを買収したBayer社は大胆な医薬開発領域の集約化を進めております。米国と日本にあった研究所を閉鎖、ドイツに集約しました。自社ではメディシナルケミストリーとスクリーニングの研究に集中し、バイオ医薬などの非連続的な技術革新は自社で抱えず、バイオベンチャーなどからライセンスする戦略に大転換したのです。実はこの転換は、英国GlaxoSmithKline社や米Pfizer社なども既に行っており、「大きな中央研究者から画期的な新薬は出ない」という割り切りです。その結果、我が国では続々と外資系の研究所が撤退をしているのもこうしたメガトレンド抜きには語れません。唯一、つくば市に研究拠点を残す米Merck社も最近、社長が突如交代するなど、なにやらきな臭い状況にあり、このままでは、外資系の製薬企業の研究所は絶滅寸前です。
 国内の企業に関してみても、武田薬品の湘南への研究所移転は、国内の研究開発を絞るための一つの方策ではないか、といううがった噂も出るほど、我が国の大手製薬企業の研究開発投資も、実は国内は絞られているという現状を認識しなくてはなりません。
 世界第二の生命科学に対する研究開発投資をしていても、桁違いの米国の吸引力に、金額だけで対抗することは難しい。ここは知恵を絞り、グローバルニッチに現在の資源を投入できたら、我が国にも生きる道が残ると思います。皆で研究費を分けたら、教授としては幸せでしょうが、我が国の未来はありませぬ。国内の製薬企業の採用が絞られ、大学の定員が削減され、ベンチャーも出来ないなら、大量に養成されたバイオ研究者は海外に流出せざるを得ないでしょう。
 本当の意味での選択と集中が必要なのです。
 その意味では先週の金曜日、彩都の医薬基盤研究所で開かれた「全国バイオクラスター会議」は考えさせられるものがありました。
 今年は知的クラスターの第二期が始まった年であり、我が国のクラスター振興策の点検がなされるべき年です。第二期では、文部科学省は選択と集中を行い、6カ所を第二期に認定しました。2006年度に終了した第一期のクラスター認定地域は12カ所でしたから、半分が選に漏れたことになります。
 福岡県【福岡・北九州・飯塚地域】、長野県【長野県全域】、大阪府・神戸市【関西広域地域(大阪北部(彩都)地域及び神戸地域)】、仙台市・宮城県【広域仙台地域】、静岡県・浜松市【静岡県浜松地域】、北海道・札幌市【札幌周辺を核とする道央地域】の6カ所がクラスターとして認定されました。
 しかし、気になるのは広域化です。選定地域を半分に集約したなぞというと相当頑張ったなという印象を与えますが、第一期の北九州と福岡、彩都と神戸が広域化とい美名の下に選出されていますから、実質落選した地域は4カ所に過ぎません。
 しかも、欧米でも半径10マイルの距離に、才能、資本、知的インフラ、分化を集約して、イノベーションの連鎖を創るのがクラスターです。せいぜい車で20~30分以内の距離に濃密に資源を投入するのがクラスターです。ばら撒きではありませんが、資源を薄く広く巻いても、イノベーションは起こるはずはない。こうした広域化は、切り落とす地域の不満をなだめるための一種のばら撒きであり、イノベーションの仇というべきものです。
 しかも、クラスターではベンチャーキャピタルよりも先に投資を回収できる自治体が重要な潤滑剤の役割を担いますが、広域化によって「自治体の境を越えたクラスター形成が可能となる」(某学者)と、勝手なことを言いますが、クラスターで増収した税収をどうやって分け合うのか? また、我が国の自治体では隣通しはとかく仲が悪く、足の引っ張り合いをしている現状を直視せず、呉越同舟の広域クラスターの一体運営などができるはずもありません。
 結局は暗黙の了解のもと、毎年5億円から10億円、5年間国が投下する資金を地域ごとの枠で分けて使うだけでしょう。これは国の予算が、よくよく見ると各省庁の分配比率がほとんど変化しないからくりと一緒です。
 その結果、ただでさえ少ないクラスターの資金が分割され、too small and too lateという資金投下となります。これはいつもの如く、泡のように掻き消える資金の無駄になると断言しても良いでしょう。この規模の資金なら1カ所の拠点に投入し四の五の言わずに、世界と競争する知的コアを海外・地域外から人材を招聘して創るべきだと思います。鶴岡市と山形県は10年間、毎年10億円を投入し、メタボロームの国際的な研究拠点を形成しつつあります。しかも、鶴岡は知的クラスターの指定は受けておりません。
 鶴岡のメタボロームクラスターの成果は、11月7日に東京で開催するBTJプロフェッショナルセミナーで披露されます。どうぞお早めに下記より詳細にアクセスなすって、お申し込み願います。
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 文部科学省が音頭を取り、国際的に競争力のある研究拠点形成を目指した世界トップレベル研究拠点形成プログラムは、毎年15億円、7年間投入しますが、今年選定された5カ所の拠点は、仙台(東北大)、つくば市(独立行政法人物質・材料研究機構)、東京(東大)、京都(京大)、大阪(阪大)でありました。旧帝大のランク上位4大学と国立試験機関1カ所なら、仰々しい選考委員会などいらなかったのではないかという悪口も聞きます。
 さらに具合が悪いのは、こうした本来なら地域の知的コアとなる世界拠点の選定がほとんど第二期の知的クラスターと整合性が取れていない点です。一体、文部科学省は何を考えているのか? 局が違うといっても、ここまでバラバラであると、これは一つの組織であると到底考え難い。トップマネージメント不在というべきでしょう。このメールでもいつも指摘していますが、部分最適は全体最適ではありません。日本の官僚制度の病が、各地で汗水流している知的クラスターの関係者を悩ませます。
 かくて、知的コアなき、第二期知的クラスター計画はスタートを切り、再び漂流しつつあるのです。この現状を打破するためには、もう第三期はクラスター予算は出ないことを認識して、将来のために知的コアを形成するのか? それとも地域の雇用対策に資金を蕩尽するのか? はっきりさせることです。
 知的クラスターの成果をどう評価すべきか? まだ文科省で議論が際限もなく続いています。あんまり真面目に考える必要はない、と思います。地域が抱える問題の解決に投入してしまうべきです。その時、米百俵が出来るかどうか? まさにその地域の知的レベルのクラスが分かるというものです。
 今週もどうぞお元気で。
 ps
 一人でも多くの参加をお待ちいたします。
 メタボロームは我が国が世界をリードする数少ないプラットフォーム技術です。
 11月7日午後1時より東京の日経ホールで、BTJプロフェッショナルセミナーを開催いたします。今回のテーマは「メタボロームの産業化」です。
 まだ水面下ですが、医薬品から食品、そして農業・環境問題まで、メタボロームの産業化は既にに着手されています。基礎研究からどこまで産業に展開し、その問題は何か。今回も熱く皆さんと議論したいと思います。どうぞ、手帳にこの時間の確保を願います。詳細とお申し込みは下記からアクセスできます。
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