京都大学社会健康医学系専攻7周年記念シンポジウムの取材を終え、東京に向う車中におります。空はすっかり秋空ですが、京都はまだ30℃以上あります。東日本には既に秋が訪れているのに、西日本はまだ夏です。今年もどうやら秋は短そうですね。
 ホテルはすっかり飽きたので、取材を終え、昨夜は京都市内の小さな古い旅館に泊まりました。
 中庭を臨む部屋はこりに凝った造りで、二辺が柾目の床柱を女将が自慢します。いよいよ寝ようかという段になり、女将が「この部屋には座敷わらしが出ますよ」と一言、まっすぐ私を見つめて、真顔で言うではありませんか。
 もともと妖怪には強い訳ではありません。京都の100年以上も経った古い屋敷です。確かにいかにも出そう。しかも、森閑と京の夜は黒く静まりかえっています。
 「ほら、あの庭の灯篭の屋根を滑り台にして遊ぶのですよ」。
 ぞくぞくっと背筋に冷たいものが走り、すっかり目が冴える。結局、白々と夜が明けるまで、一人ぽつねんと、座敷わらしを待ちましたが、凡人には見えるはずもなく、睡魔だけが残りました。
 「座敷わらしの座敷に泊まられた方の運気は間違いなく上昇します」と女将は言いますが、本当でしょうか。京の伝統は誠に深い。ただ、ため息をつくのみです。
 さて、本日、両院議員総会で福田首相が選出されました。自民党の派閥政治の伝統の深さも、きっと今夜には決まる閣僚人事に滲みでるでしょう。我が国の政府はイノベーションを継続する改革に布石を打つのか? それとも格差解消の掛け声の下に、横並びの護送船団方式を復活させるのか? どっちにしても、次の衆議院選挙までは、政界が流動化し、官僚の力が復活する可能性が濃厚です。見通しが出来ない不確定性の時代に突入です。
 先週の日経新聞のコラムで、文部次官が退官後、山形大学の学長に天下った(教職員の投票では2位でしたが、学長選考会議で逆転)問題を指摘した「公共事業化する大学」は、皆さんに一読をお勧めしたい評論です。国立大学法人化によって、文部科学省の支配が強まり、存続に危機感を抱く地方の国立大学では、中央官僚出身の学長を受け入れることにより、国の支援を期待し、生き残ろうという目線の低い傾向が強くなっています。まるで、官僚を受け入れることで国の受注を期待するゼネコンのような大学が増えているのです。政界の混迷で、官僚の力が増大すればこうした傾向は強まるのではないかと懸念しています。
 これはすなわち”大学の自殺”に他ならない、と私は思います。既存の権威からの自由こそ、学問を活性化させるものだからです。
 地方の国立大学が存続をかけるなら、まず頼るべきは大学が存在する自治体であり、住民です。地域社会にどんな人材や知恵を供給し、貢献できるのか? 自ら検証する必要があります。また、小さな分野でも構いませんから、世界的に独創的な研究センターを作れば、世界中の研究者や研究資金を吸引することもできるでしょう。実際、京都府立医科大学は、アムウェイの創始者一族が出資した米国のVan Andel Research Instituteと提携、モンゴル・ゲノムプロジェクトを2007年7月から開始した。マイクロソフトの創始者、Bill Gatesが創設した財団など、現在、欧米では多数の非営利財団が最先端の科学研究に、国籍のわけ隔てなく投資を始めています。何も、米国国立衛生研究所の6分の1程度のわずかな研究費しか、バイオに政府として投資していない、日本政府にすがりつく必要もないと考えます。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/5216/
 今や世界の科学研究はインターネットで結ばれ、世界は一つの科学市場を形成していることを確認すべきだと思います。日本以外、誰もその名前さえ覚えていない文部省の前次官を学長に据えることに一体何の意味があるのか?
 国立大学法人を国立大学に戻そうというような後ろ向きの改革はやがて破綻することは避けられません。文部科学省は複数の大学が共同で学部を創設できる新法を国会に提出する準備を進めています。これはすなわち、大学の合従連衡を進めることにゴーサインが出たことでもあります。少子高齢化により学生数が急減することを考えると、皆前へ倣えで特徴のない地方の国立大学は再編せざるを得ないことは必定です。しかし、その存続を保証するために、自らの知恵で教育や研究に付加価値を創造するのではなく、文部科学省のコネを強化することで安寧を得ようとするのは、まったくの時代錯誤。まさに日本昔話の世界であると考えます。
 くれぐれも山形大学に追従する大学が出ないよう、大学人の叡智に期待しております。
 最後に皆さんに御礼です。先週横浜で開催したBioJapan2007に大勢の読者にご参加いただきました。お蔭様で盛会に終わり、多数のWin-Win関係も築かれました。来年も10月に横浜でBioJapan2008を開催いたします。一人でも多くの読者のご参加を期待しております。皆さん、本当にありがとうございました。
 さて本当に最後ですが、11月7日午後1時より東京で、BTJプロフェッショナルセミナーを開催いたします。今回のテーマは「メタボロームの産業化」です。実はまだ水面下ですが、医薬品から食品、そして農業・環境問題まで、メタボロームの産業化は既にに着手されています。基礎研究からどこまで産業に展開し、その問題は何か。今回も熱く皆さんと議論したいと思います。どうぞ、手帳にこの時間の確保を願います。場所は大手町、日経ホールです。
 今週も、お元気で。
 ps
 先週19日に米国厚生省が「Personal Health Care」を目指すという報告書を公開しました。詳しくは、明日発行の個の医療メールで紹介します。まだ受信していらしゃらない方は、どうぞ下記よりお申し込み願います。
http://passport.nikkeibp.co.jp/bizmail/p-med/index.html