11日の晩、ファンの暴動事件後に再会したセリエAの試合を見ました。ACミランに移籍したロナウド選手のデビュー戦でもあったためです(奮闘しましたが、無得点)。
 暴動のペナルティと安全確保のため、無観客試合のはずなのに、何故か、観客席は6部まで埋っており、頭は疑問符だらけ。さすがイタリアと思っていたら、熱烈なファンが三日三晩交渉して、年間予約席だけは観客が誰だか確認した上で入場させる措置を取ったことが分かりました。多数の観客のうち、ごく一部の暴徒を除く方法を見出したという訳です。しかし、こうなるとフラッとセリエAを観戦しに行くこともできなくなります。
 多数から意味ある少数だけを見出すというのは、なにもサッカーだけの問題ではありません。バイオでもDNAチップのデータの迷宮に迷い込んだ研究者は多数いるはずです。
 現在、東京渋谷の日本薬学会館長井記念ホールで、トキシコゲノミクスプロジェクト(TGP)研究成果発表会を取材しております。
 2006年度で最終年度を迎えた厚生労働省が支援したトキシコゲノミクスプロジェクトの締めくくりのシンポであります。質量とも、世界最大級の遺伝子発現解析プロジェクトがどこまで進んだか、興味津々です。2万5000枚の米Affimetrix社のGene Chipを駆使して、臨床試験で毒性によってドロップした医薬品、150種の化合物による遺伝子発現の膨大なデータベースを蓄積しました。
 ラットにこうした医薬品を投与して、肝臓と腎臓での遺伝子発現のパターンの差を、28日まで追跡しています。データの品質管理と十分なプロトコールによって、大変貴重なデータが集積しました。
 こうした経験はDNAチップを使った研究を行っている研究者皆にとって極めて役に立つ情報です。今週の金曜日午後1時から当社が開催する「DNAチップの互換性を問う」、DNAチップセミナーでも、トキシコゲノミックスプロジェクトの内容と実際の苦労をお話しいただく予定となっています。
 DNAチップやマイクロアレイはただデータを取る時代から、意味あるデータ、できれば知識として活用する時代に入ったと考えています。そのために、互換性やデータの品質管理、標準化、定量性の確保は不可欠の条件となると考えています。その意味で「これは宣伝ではありませんが、少なくともGeneChipを使う限り、定量PCRで確認する必要もない定量性を確保できます」と医薬品基盤研究所TGPの漆谷徹郎氏が指摘ことは誠に心強い。勿論、こうした明快さの背景には、厳密に管理された実験プロトコール、サンプル採取法、データ解析法、そしてそれらを総て監督する品質管理システムがTGPに存在することを忘れてはいけません。
 果たして皆さんはどうしているのでしょうか? もしこうしたことに考慮せずに、論文や学会発表していると、単なるノイズを提供する罪を犯す恐れもあります。どうぞお気をつけいただきたい。
 TGPの成果として、薬剤単回投与による遺伝子発現解析データから、長期連用投与による副作用をラットで予測できるようになりました。但し、種の壁は厚く、グルタチオン欠乏を引き起こすような薬剤のデータはヒトとマウスでは全く相関しません。しかし、PPARαを通じた副作用では、ラットのデータからヒトの副作用を予測可能でした。現在のところ、ラットのデータからヒトに外挿できる薬剤とそうじゃないものは判別できるという段階です。
 毒性とは何か、それが遺伝子発現プロファイルでどう表現されるか? こうした研究をもっと深く追求し、それぞれ毒性を発生する機能モジュールのような遺伝子セットが判明すれば、ラットのデータからヒトの臨床での副作用を予測可能となるかも知れません。まだまだ研究を進めなくてはならないということです。ラットの遺伝子で、GOのアノテーションで機能が示されているのは、15672に過ぎません。しかも、アポトーシスと記述されていても、細胞死を誘導するのか? 抑制するのか?、つまり毒性学的に必要な情報は記述されていません。しかも、もっとも役に立つ、代謝パスウェイのデータベース(KEGG)には764個の遺伝子しか、ラットでは記述されていないというデータの種の壁(現在のオミックスデータはヒトに偏っています)も存在します。
 現在は参加企業と参加研究者だけがアクセスできるTGPのデータベース(TG-GATEs)を、いかに研究費を支出してきた企業の不満を抑えて、より多くの研究者に活用してもらい、遺伝子発現データから抽出された毒性を示すかもしれない遺伝子セットを、抽出するための、ウェットな実験結果をフィードバックしてもらい、データの蓄積から、実際のヒトの副作用を予測するに足る知識を生み出す努力を重ねなくてはなりません。
 ミレニアムプロジェクトの一部でもそうでしたが、基盤が出来てこれからデータを知識に転換して、世の中にお役に立つ研究を始めようとすると、研究費が切れるという、誠にもったいないプロジェクトがありましたが、TGPもその類となることを恐れます。これからは化合物数を更に拡大し、共同研究も拡大する必要があるでしょう。
 総合科学技術会議の評点は厳しかったようですが、これは赤ちゃんに大学の勉強を鞭打つようなもの。毒性学がいかにまだ未熟であるか、斯界の権威の無知ゆえに鞭を打つという愚を冒しました。
 より安全な医薬品や化学物質を実用化するために、毒性学の近代化が不可欠であり、そのために世界をリードするTGPは更に推進する必要があるのです。2007年度からの後継プロジェクトに関しては、現在、検討中だとのことですが、こればっかりは、止めたら負けです。ぜひとも続けていただきたい。但し、150化合物では化合物数が不足します、もっと多数の化合物を製薬企業が提供し、ついでに最も短時間で成果を享受できる可能性のある製薬企業はもっと資金を提供しても良いのではないでしょうか?
 先行企業は寛大な心で企業の参加枠を拡大するべきです。解析対象となる化合物が増えれば増えるほど、単なる発現解析情報が、副作用を予測する知識へと変わるためです。
 どうぞ皆さん、今週もお元気で。PS
 遺伝子の再定義をテーマにしたBTJジャーナルをお読みになりましたか?
 かなり多数の専門家から刺激的だったという感想をいただきておりますが、一部「分かるヒトは分かる」といった難しさを指摘する意見もありました。
 若干下足らずであった部分を補足させていただきます。
 国立遺伝学研究所の小原所長が指摘した「1つの細胞で、(オルタネーティブプロモーターなど)を計測しましたか?」という質問は極めて重要な意味を持っております。
 つまり、複数の細胞の塊をすりつぶしてキャップ構造を持つRNAを抽出し、分析しているため、細胞の状況によっては、多種のRNAが存在していることを示唆しています。それをその組織の標準的なRNAのプロファイルと解釈すると、ある特定の生物学的な機能とRNAをうまく対応付けできない可能性があります。ちょっと対応付けが甘くなる可能性を否定できません。こうした疑問に終止符を打つためには、均一化した細胞群を用いるか、一細胞のRNAプロファイルを分析する必要があると思います。
 こうした研究成果は近く出てくるはずで、より明確なncRNAの機能像を明らかにしてくれると思います。
 ぜひとも皆さん、まだ、BTJジャーナル1月号をお読みでなかったら、下記からダウンロード願います。それぞれの研究者の一言一言を楽しむことができます。 PS
 今年からは、BTJ/HEADLINE/NEWSは月曜日は宮田、水曜日はBiotechnology Japan 編集長の河田、金曜日は橋本が担当します。3人で可能な限り、激変するバイオの今を皆さんにお伝えしたいと思います。
 私はこのほか、水曜日に個の医療メールで医療問題とテーラーメイド医療を、また毎月15日にはRNAiAlert MailでRNAiの先端を報道します。もし、私のバイオに関する独断と偏見、そしてスポーツ記事を読みたいと希望される方は下記からご登録願います。

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