セリエAのシシリアダービーマッチでのサポーターの暴動は、サッカー全体に暗雲を立ちこめるほどの衝撃があります。イタリアでもアマチュアリーグの試合で、やはりファンの小競り合いが起こり、犠牲者が出たばかりです。サッカーが集団のアドレナリンの分泌を誘導し、ある種のカタルシスを起こして社会の憤懣を霧消させる機能があることは、ローマの競技場以来の伝統ですが、ここまで来ると行き過ぎです。
 サッカーを社会の一部の悪意や憤懣の犠牲にする訳にはいきません。今シーズンのセリエAがここで終わっても、不思議ではないでしょう。根本的な対策を立てなくては、擬似戦争としてのスポーツがある種の社会的なテロリズムに利用されることを恐れます。誠に悲しい話です。
 さて、バイオですが、バイオでも悲しい話を一つ。
 実は、国際的に競争力のある研究拠点をわが国の大学や研究機関の中から30カ所を集めて創設する、グローバルCOEプログラムが、わが国の国立大学を巨人軍化しつつある悲喜劇です。若手の育成を怠たり、ビッグネームだけを集めた巨人軍が決して優勝できなくなった轍を踏もうとしています。長嶋監督が若手を鍛え、優勝の基盤を作った伊東キャンプをバイオでも忘れてはなりません。
 2007年の新規予算で、グローバルCOEは157億5800万円もつきました。これによって、リサーチ大学と教育大学に、わが国の国立大学は二分されることになります。確か、COEプログラムというものは以前にもあり、全国各大学にばらまかれ、これをニンジンとして競争的資金が導入されていった歴史的経緯があったことを誰もが覚えているはずです。あの時のCOEは何だったのか? 国際的に競争できないようなCOEを実は、大学の虚栄心をくすぐるために、全国にばらまいたのか? と問われてもしようがありません。但し、鳥取大学のCOEのように、今まで眠っていたような大学に、東京に右に倣えではない、独自の科学研究基盤を形成したメリットはありました。こうしたことが可能だったのは、染色体工学という世界で誰もやっていないことに挑戦する研究者がおり、それを核とした研究チームを育成するという英断の賜であります。
 世界のどこかにあるような研究を追求したCOEは、結局、Center of Exhaustになってしまいました。歴史の必然と言うべきかもしれません。つまり、現有の研究者だけでは真のグローバルCOEは出来ないという認識です。
 しかし、これが現在の国立大学を巨人軍化する最大の原因となりました。
 京都大学が、大阪大学の自然免疫の教授のスカウトを断念したことが報道されました。現在、また同大学が大阪大学から大物教授のスカウトに走っております。一方、大阪大学も、グローバルCOEに免疫をテーマに申請したいため、京都大学から有名教授にスカウトすることを計画しています。
 これは全国でも行われているのではないでしょうか?
 かつてこのメールでも懸念した、大学の巨人軍化が始まったのです。実は先例に、東京大学があります。生命科学分野で有名教授をかき集めたのですが、果たしてその成果は上がったのか?冷静に判断する必要があると思います。東京大学はお気の毒な大学で、何かと政府の委員会などに引きづり回される立場にあり、そうした政治が好きな教授を除いて、創造的な研究は難しい文化があることを理解しなくてはなりません。
 もし、今年のグローバルCEOの選考に当たって、当面の大物をずらりと揃えた提案があったら、それは巨人軍であります。4番ばかりを並べても、世界に覇を唱えることは到底できません。特に、バイオの場合は、老中青の結合が重要です。老獪な大物教授少々と、ばりばり働く中堅教授、そしてCOEを本当に10年後に担う若き才能の組み合わせが重要です。名前ばかりで、中身、つまりアイデアが冴えない研究機関は断固として、落選させる見識が重要です。
 もう一つ、もっと深刻な事態が、国立大学の巨人軍化によって新興しつつあります。地方大学の有望な若手教授や研究員の青田刈りが進む可能性があるためです。昔は、阪大→熊本大→阪大のように、地方大学が若手研究員のポストとして機能しておりましたが、最近は地方大学に放出せずキープしたり、逆に地方大学の若手を吸い上げることによって、地方大学という地方リーグがやせ細る結果を招いています。しかも、競争的資金はその若手研究者毎、中央の大学に移籍してしまいます。
 生命科学の基盤が歯槽膿漏のように痩せているのです。いくら大物を揃えたCOEが燦然と高みを誇っても、本当の意味で国際的な競争力を持続的に維持する基盤とはならないでしょう。今回のグローバルCOEも集中だけでなく、こうした地方大学との連携による科学研究基盤の拡大も評価すべきだと考えています。
 どうせなら、せっかく育てた若手研究者を研究費ごと奪われる今の地方の国立大学の現状を、プロ野球に準じて変え、例えば今後3年間に若手研究者が獲得する研究費の10%を移籍金として地方大学に還元するような仕組みを取るべきなのではないでしょうか。当社のスタッフがそこまでやらなくては本物じゃないと言っております。私も地方大学が人材養成機関として飛躍するためにも、こうした補填措置は絶対必要だと考えています。そうすれば、地方にバイオの世界に競争できるユニークな知的拠点が出来、続々と野心的な若者が中央の大学に駆け上るダイナミズムが生まれると考えます。
 今週も皆さん、お元気で。