旧年中は大変お世話になりました。
 今年もバイオ産業は急速に成長する予測です。会計事務所のE&Y社の予測(05年4 月)では、08年に米国のバイオ産業は全体で黒字化します。来年、米国ではバイオ産業が自立的に成長するサイクルに入るのです。
 そして2010年には、世界のバイオ産業全体も黒字化すると、同社は予測。おまけに今年、全世界で最も成長性が期待できるのはアジア地域であるとまで、名指ししています。
 E&Y社のレポートが正しければ、我が国もアジアにあるし、ホクホクの年に今年はなるはずですが、私は今年、緩んではいけないと、初日の出を拝みながら、決意を新たにいたしました。
 何故なら、ひょっとしたら我が国だけが、世界のバイオ産業の上昇気運に乗りそびれる可能性があるためです。
 安倍政権がイノベーションを標榜していることは極めて正しい方向です。しかし、これを何故、今声高に叫ばざるを得なかったか、という事情を考えると空恐ろしい感覚に囚われます。冷や汗が出る感じです。何故か。それは現状の我が国の産学官のシステムが、イノベーションを阻むシステム、そのものであると実感しているためです。
 乳がんの抗体医薬「ハーセプチン」の標的であるerb-Bの発見、グリベックの作用機構であるたんぱく質のリン酸化酵素の阻害剤、遺伝子型に基づいた個の医療の最初の低分子化合物の例となったイリノテカンの解毒酵素UGT1A1の*28多型、抗体医薬「アバスチン」の標的であるVEGFなど、多数の大型バイオ商品の初期の研究を成功させたのは日本の科学者でありますが、その商品化の果実を享受しているのは、皆海外企業や海外の消費者であるという事例が、調べれば調べるだけ、我が国に存在していることを知りました。
 まさに、イノベーションの墓場ともいうべき惨状です。
 これは我が国のバイオ研究やバイオ産業の問題かと思って、ドラッグラグや総合機構の審査体制整備、大学のトランスレーショナル研究の進展などを議論して参りました。しかし、どうもイノベーションの墓場はバイオや生命科学に特定の問題ではない。半導体やナノバイオでも、初期の発想や技術突破は日本の研究者だが、結局、それが企業化できず、一度下火になった後で、その技術を拾った海外の企業が大きな市場に育成する例があることが分かりました。どうやら他の分野でも、同じことが起こっているのではないでしょうか?
 優れた、そして野心的な技術突破を成熟させるインフラを私たちの国が欠いている、つまり我が国全体の仕組みが”イノベーションの墓場”である予感すらしてまいりました。総合科学技術会議で議論するイノベーション25戦略は、この墓場からの脱却を目指すべきだと強く思います。多分、個別テーマではなく、全体的な最適化を同時に行う、理念的な改革が必要になるでしょう。
 そのためには、現在、我が国にはびこっている神話を破壊しなくてはなりません。その一つは、大企業の方がベンチャー企業より商品化力がある、といった神話です。1月4日に、バイオセンターの専門記者9人が総出で、記者の目・2007という今年の展望を執筆しました。私がその中で指摘したのは「科学原理主義」という神話がどうも、国立大学と政府に浸透し、皆、脳髄が痺れてまともな判断が出来なくなっている。そのため、建前の議論ばかりで、本質的に科学を進め、その成果を社会に還元できなくなっていると述べました。どうぞ下記の記事をご覧ください。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/1220/
 また、記者の目・2007特集もどうぞアクセス願います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/1278/
 更に、53人のバイオのオピニオンの新春展望をまとめた特集も下記からアクセス願います。ものすごく参考になります。今年のバイオを占う上でも、どうぞ下記をご覧ください。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/1216/
 今年もどうぞ、宜しく願います。 

PS  来年からは、BTJ/HEADLINE/NEWSは月曜日は宮田、水曜日はBiotechnology Japan 編集長の河田、金曜日は橋本が担当します。3人で可能な限り、激変するバイオの今を皆さんにお伝えしたいと思います。
 私はこのほか、水曜日に個の医療メールで医療問題とテーラーメイド医療を、また毎月15日にはRNAiAlert MailでRNAiの先端を報道します。もし、私のバイオに関する独断と偏見、そしてスポーツ記事を読みたいと希望される方は下記からご登録願います。
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