がん医療は転機の最中(さなか)にある。人口の高齢化に伴い患者の増加が続く一方で、個別化医療への関心が他の疾病以上の高まりを見せている。とりわけ個別化は、診断、治療、創薬、予防のがん医療・医学に関わるあらゆるシステムに見直しを迫る一大ムーブメントの様相を呈している。



 がんがゲノムの病気であることはよく知られている。がん細胞の遺伝子変異(主として体細胞変異)に基づき、診療方針の決定、処方する薬剤を決定する試みが乳がん、非小細胞肺がん、大腸がんを対象に始まり、選択された患者については高い奏効率や生存期間の大幅な改善など、一定の成功を収めてきた。遺伝子解析コストが低下することによって、遺伝子変異に基づく患者選択を背景とした個別化医療の進展が期待されている。



 ところが、こうしたホールゲノム解析(whole genome analysys)が暴いたのは、がんの多様性であった。すなわちがんは、均質な細胞の集合体ではなく、多様な遺伝子変異を有するバラエティ豊かな細胞群で構成される1つの擬似的に独立した生命体であったのだ。同じがんの中でも多様性があり、しかも患者が異なれば、同じ病名がついたがんであっても異なった細胞集団で構成されている。



 今後、次世代シーケンサーの活用によって、がん患者1人ひとりに関する配列データが“量産”される。解析のためにはスーパーコンピューターなどの高性能の計算力が必要になる。がん研究はビッグデータの時代に突入したといえる。



 がんゲノム解析の結果をどのように患者の救命、延命につなげるかがバイオテクノロジーに課せられた大きな課題である。

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